浮遊する肉体の残滓…「BAE JUNG SOON PAPER WORKS '09」
Category : 現代美術シッタカぶり


4月28日→ 5月10日【ギャラリーマロニエ4】
韓国と日本の往復で、どちらに住んでいるのか、わからない…
本人も肩をすくめて笑う。
韓国では、鉛筆で緻密に描かれた画集が刊行されている。
人体の動き、構造を緻密に描写、デフォルメしたそれらは、とても魅力的だ。
ギーガーは好き?
質問してみると、興味はあったが根本的には違うと言われた。
私は元から「恐怖」を表現したかったわけではない。
ボディの持つしなやかさをファッションイラストレーションとして表現、
生徒たちにレクチャーしてきた、と。
しかし年齢を重ねるに従って弱くなってきたと語った。
それは「しがらみからの守り」や「外敵に対しての防御本能」なのかも知れない。
かつての下着やコルセットのようなシルエットは どれも、
つんとこちらを挑発するような乳房を包み込む二つの
強調された立体が特徴。
しかし、勘違いしてはいけない。
その形は疑似餌のように囁く… 暗い会場に浮くそれらは
深海を漂うクラゲぼ一種のような、
頼りなげな“アブナさ”と
寄らば斬るぞ、と触手で探りながら、
餌食となる獲物を漁るエイリアンのようにも見える。
作品について共通して感じられた印象は
徹底した“女性的フォルムの讃歌”と“その虚脱感”。
が、ファースト・インプレッションはまさしくプラスティネーションであった。
人体の水分を全て抜いた状態でほぼ完全な形で
人体構造を維持することに成功した画期的な「人体解剖標本」である。
彼女にその印象を伝えるととても喜んでいた。
最初はその創作イメージがあったらしい。
作品は、勝手に自分歩きする方が面白いに決まっている。
宇宙人に見えようが、下着に見えようが、抜け殻に見えようが勝手である。
毛細血管のような白い“紙縒(こよ)れた”葉脈は決して見るものに媚びることはない。
突き放すような冷たさを秘めた“クール”でコワい
女性の本性に睨まれているような気になってきた。
このような作品は近くに寄って、その作業の細かさやテクニカルなものにばかりに
目が向くと、すでに意味を成さなくなる。
その向こうにあるものを見なければならない。
だからペーパーワークは「紙工芸」で着地してしまっているものが多いような気がする。
このシリーズは、たぶん彼女の中では完結しているのではないだろうか。
次なる素材とテーマに充分に期待できる作家である。