森の様相を静かに眺める守護神…「ロバート・プラット TALES FROM THE LIMEN 」
Category : 現代美術シッタカぶり

2月5日→2月28日【eN arts】
円山公園内のギャラリーはホワイトキューブでありながら、
独特のロケーションを活かした造りとなっており、
床の間を備えた和室や坪庭をしつらえたユニークなもの。
作家はロンドン生まれで京都を拠点に制作。
京都芸大の博士過程を今春卒業し、母国への帰国を控えた
日本で最後の個展となる。
ギャラリーの真っ白な壁一面にモノクロで直接書かれた森の絵は
どことなく昔の図鑑的なテイストを持つもの。
人類と自然とを“分つ”ものと“出会う”もの。
その自然を象徴する大きなキーワードとしての「森」を軸にしている。
森は何者かの化身が姿を変え、息を潜めているかと思えば、
美しい妖精が飛び交い、大樹が神の代弁者として威厳を保ちながら
古代から静かに穏やかにそこにあった、というのは神話の世界である。
とは言え、森は健全な生態系の循環を如実に示すものとして
常に環境を推し量るバロメーターであり、
また深遠で神聖なるステージであった。
円形のカンバスにはそれぞれ、
騎士のような人物と森の住人であるがごとき
“ネイティブ”な人影が見える。
しかし森そのものは細かいモザイク状のペインティングに
カモフラージュされたような描かれ方で
まるで森を知り尽くした「プレデター」から見た視点のようだ。
とても映像的である。
この絵を見ていると感覚がブレてきて、
未来から太古の森に迷い込んだような錯覚に陥る。
それは猿の惑星にあるような、
観客をトリックに絡める巧妙な手口である。
この地盤がずれたような感覚は目眩も伴うが同時に心地よい。
それはひと言で表すなら、この円形の絵そのものの
完成度の高さから来ているものだろうと思う。
もっと言えば“観客が追いつけない”ほどの
イメージ戦略を作家が構築しているということだ。
僕たちはしばし絵の前で背景の森と手前の円形絵画とを
結ぶためにそれぞれの残像を組み合わせなければならない。
そこから湧き上がってくるメッセージを
かなりの時間差で受け取ることになる。
この時間の僅かな蓄積が
圧倒的な説得力を伴う要因ではあるまいか。
何歩も先を行く作品である。
解説にある「鑑賞者はプラットの描く世界に属してしまう」という
表現は正に的確に言い当てていると思う。
森というサンクチュアリが、変化、衰退、消滅という経過を
辿ろうとしている危機的現実の中で
いしにえから培ってきた森ならではの分別を
たかだか人間がとやかく言える筋合いのものでもない。
そこには多分誰も見た事が無い“とんでもない何者か”が居て、
何かがあった時に我々に報復してくる
タイミングを図っていることだろう。





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