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「 摺師 戸田 正の仕事 〜 作家の絵筆となる 」

Category : 現代美術シッタカぶり
2015.03.07〜03.29【 CHOJU contemporary art 】

先日、山本昌代さんの「エルンストの月」というエッセイの中の
「江戸学の講師になる」という書き下ろしの章を読んで
改めて浮世絵の影響力について深く考えさせられました。
フランスの画家であるブラックモンが
日本から送られてきた陶器の包み紙が北斎漫画の一部だったという
とんでもないエピソードは想像通りの展開になって、
マネやドガなどに見せて回ったところから
印象派誕生の発端となったという話が
果たして大げさであるか否かは別として
ひとつのきっかけになったことは確かなようです。
これがいわゆるジャポニズムの流行です。
ゴッホが広重に影響されていることは周知の事実ですが、
おもしろいのはゴッホは広重の絵を見て
日本は熱帯圏の国と思い込んでいたらしいということです。
つまり描かれている対象に“温もり”を感じ、勘違いしたのでは、という
著者の見立てです。
ここが大きなポイントですね。
この木版画(浮世絵)特有の「温かみ」は何から由来するものなのか。
つまり日本特有の湿度や粋さ、
もちろん四季の変化を肌で感じ取ることのできる風土性、
そこに加わる「ひとの手」ここだけの色、といろいろと考えられます。

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戸田正さんという方は2000年にお亡くなりになっています。
没後15年にして初めて
現代美術作品の摺師としての展覧会が開催されることの意義は
計り知れないものがあります。
おわかりのように浮世絵の摺師である戸田さんが
アメリカの現代アーティストとコラボレーションするということへの
風当たりの強さを想像するに、
戸田さんの英断ともいうべき行動の意義をも同じくらいに深いのです。
1991年から10年間の企画には名だたる作家たちが参加し、
「木版画の伝統的な工程に従って制作し、
戸田氏と共同制作をすることによって、
職人の精神性や技術に深く影響を受けた。
中でも現在アメリカを代表する作家である
チャック・クロースは戸田氏との出会いは
自らの転機にもなったと語っている」(解説より)
ギャラリストのお話によればオープニングでは
ご家族もお見えになり、当時のご苦労を話されたということです。
現代作家と摺師という関係の、
いわばオーダーによって成立する作家の「思い入れ」を
大きく左右する立場にあります。(もちろん彫師もです)
15歳で木版画摺師である父に師事して、その後は京都の版元を中心に
“伝統産業”である木版画に従事した戸田さんを取り巻く環境の
工程、段取り、セオリーといったものは必然として
受け継がれるべきものではあるかもしれませんが、
やはり需要が少なくなってくるといった察する通りの
辛い状況は厳然としてあったようです。

日本の木版画というのは世界の版画史に大きな功績を残しています。
その技術(手数)、色合い、風情というものに多くの作家が魅入られ、
自分の作品を日本の木版画で摺ってみたいと思うのは自明の理なのです。
だからこそ戸田氏のような固定観念にとらわれない感覚と
腕をもった職人がこのプロジェクトに唯一手をあげたことは
やはり日本のみならず、むしろ世界の版画界において
大いなる財産を得たということだったと思います。
戸田氏の手記にある
「作家が摺師を一つの媒介として仕事を進めて行くのは
彼らにとって大変もどかしい事だと思います。
しかし私はそのもどかしさの中から作家と摺師の心の交流が生まれ、
一つの作品を作り上げていくという、一体感が持てるのだと思っています」
という一節に改めて敬意を表したいと思います。

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